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「パートの給料はあがるのですか?」
「常に人手不足、かなりストレス」
「みんなピリピリしてる」
「上に統率力がないのではないか」
社員たちの本音が書かれた事前アンケートを読みながら、
ワイキューブの野村晃裕は途方に暮れていた。
2週間前。
ワイキューブでクライアント向けの組織活性化企画を担当
する野村は、先輩の金入常郎から相談を受けた。
内容は、長野の湯田中渋温泉郷にあるホテル
「渋温泉 春蘭の宿さかえや」の組織活性イベントの立案を
任せたいというものだった。金入は窓口として、さかえやを
担当していたのだ。当時、野村は多忙を極めていたが、2つ
返事でOKした。同社は2008年に入ってワイキューブと関わ
る中で、採用においても、営業においても、着実に結果を出
し始めていると社内でも評判が聞こえており、個人的にも
興味があったからだ。
相談の席で、金入は言った。
「さかえやさんも、ようやくコンセプトを明確にして、自分
たちのブランドづくりのスタート地点に立てたと思う。
今まで見てきたけど、これは本当にすごいことだよ。でも、
社員の人たちからすれば、自分たちと関わりのない場所で、
経営者がコンセプトを考えて、『今日からこうしますから、
よろしく』と言われた所で、まったく腹に落ちないと思うし、
結果的にそれだと、意味がないと思っている」
その頃、さかえやの湯本社長はすでに、社員を連れ立って
ワイキューブに相談に訪れるようになっていた。日常と違う
空間で、会社の課題について相談し、ひざを突き合わせて
議論する。

そうする中で、参加した社員はいつしか、さかえやのことを
「自分ごと」として捉えるように変化していた。その過程を
間近で見ていた金入は、状況が着実に前進していることを
肌で感じていた。
しかし、当時、採用を担当する社員が一番心配してたのは、
セクション間のコミュニケーションの問題。そして、湯本社長
と社員達との認識のズレだった。その事に、湯本社長自身も
頷いていた。
これを受けて金入は、間近に迫る全館休日の日に向けて、
ある研修を提案した。課題整理を進める前に、組織風土の
下ごしらえをする必要を感じたからだ。
「いま、やらなければならないことはわかります。
でも、絶対に失敗はできない」
「うちでやるか、ワイキューブさんにお願いするか、
考えさせてもらえますか」
電話口から聞こえる湯本社長の声は低く、いつもとは違う
真剣さがあった。
研修の開催は難しいかもしれないと、金入は思った。
しかし、土日を挟んで月曜日に、思わぬ回答がきた。
「ワイキューブさんにお願いします。社員に相談したら、
絶対やりましょうって」
社員に背中を押されるように、湯本社長は研修の開催を決断。
即座に金入は動き、研修に向けた事前アンケートを実施した。
そのアンケート結果を今、野村は手にしている。
予感は、見事に的中したのだ。社員の心に溜まっている澱の
ようなものがそこには書かれていた。予想以上の内容だった。
野村はこのアンケート結果を、当日のプログラムにどう活かす
か迷った。正直、「こんな質問、聞かなきゃよかった」とまで
思っていた。
しかし、箱のふたはもう開いてしまったのだ。
であれば、今から後戻りはできない。
日々の仕事の中で溜まっていくストレスやフラストレーション。
それは、人間として当然のものであり、ごく自然なもの。
だから、精神論でそういったものを否定しても、根本的な解決
にはならない。これまでの経験から、そのことは骨身に沁みて
いた。
野村は覚悟を決めた。
アンケート結果を全社員に公開し、湯本社長にその場で答えて
もらおうと提案したのだった。
(・・・ 「第二話」 へと続きます!)
<主な登場人物>
湯本晴彦 〔Yumoto Haruhiko〕
春蘭の宿さかえや 代表取締役社長
さかえやは、長野湯田中渋温泉郷にある老舗ホテル。ワイキューブのセミナーにたまたま参加したことがきっかけで相談に訪れるようになる。限られた資源を生かし、2008年から社員と共に、人を軸にした経営改革に乗り出す。
金入常郎 〔Kaneiri Tsuneo〕
1978 年生まれ。主に「顧客をひきつける」ための営業コミュニケーションを中心に、組織の中間層強化やブランディング支援など幅広く活躍。前職では外資系の会計系コンサルティング会社に勤務し、 ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの導入に携わっていた。学生時代はアイスホッケーひと筋だったという熱血漢。
野村晃裕 〔Nomura Akihiro〕
1984 年生まれ。入社時から組織コンサルティングに従事し、「社員をひきつける」ための組織コミュニケーションを専門とする。クライアント向けに組織活性イベントの企画だけでなく、階層別研修や新人の初期教育など、社員育成プログラムのファシリテーター(司会・進行役)としても活躍する。
