ワイキューブ|特集企画・レポート|【感性対談】 小阪裕司 × 安田佳生

【感性対談】 小阪裕司 × 安田佳生

↓今回は、こちらにお邪魔しました。廃校になった小学校をリノベーションして、演劇のリハーサルや企業の研修会場として提供している、芸能花伝舎さんです。
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オラクル・ひとしくみ研究所代表、日本感性工学会理事、静岡大学客員教授、九州大学非常勤講師として活躍しながら、全国1,500社以上が参加する“ワクワク系マーケティング実践会”を主催。『「買いたい!」のスイッチを押す方法』(角川Oneテーマ21)『ビジネス脳を磨く』(日経プレミアシリーズ)、『そうそう、これが欲しかった!』(東洋経済新報社)、日経MJに連載中のコラムをまとめた『招客招福の法則』(日本経済新聞出版社)など多数のベストセラーを持つ小阪裕司さんに会いに行ってきました。工業社会から情報社会、さらに感性社会へと移行する中、新たな時代に対応したビジネスの考え方や実践法についてお話し頂きます。

 

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安田
こんにちは。今日はよろしくお願いします。
小阪
こちらこそ、よろしくお願いします。
安田
あのー、いきなり素朴な質問で恐縮なんですが、小阪さんのご職業って何なんでしょうか?作家として本もたくさん出してますし、ラジオのパーソナリティーもやられてますし、大学で教えたりもしていて、単にコンサルタントというのとは、ぜんぜん違いますもんね。
小阪
そうですね、ちょっとわかりにくいですよね(笑)
安田
名刺には、何て書いてあるんですか?
小阪
一応、代表取締役、という表記の他に「エヴァンジェリスト」って書いてあって。
安田
どういう意味なんですか?
小阪
「伝道師」という意味なんですよ。創業以来16年間、ずーっと使ってるんですけどね。
安田
"伝道"というと、「ワクワク系」を"伝道"するんですよね。
小阪
そうですね。ワクワク系というひとつの“商道”というか。商いの考え方(フレームワーク)と、営み方(実践法)ですね。これをいかに広めるか、伝えていくかという役割として伝道師という肩書きをつけたんです。
安田
あの・・・つかぬ事をお伺いするんですが、「ワクワク」じゃないとダメなんですか?「ドキドキ系」とかじゃダメなんですか?
小阪
ダメです!(笑)こう、なんと言うか、気持ちの根っこから湧き上がってくるような情感であったり。
安田
楽しい感じ、愉快な感じというような?
小阪
楽しいというのは、あくまでワクワクの一部であって全体ではないんですよね。楽しい="Fun"という意味と同じかそれ以上に、"Fulfillment"という感覚もあります。満たされたというか、しみじみと感じ入ったり、「これだよ、これこれ」というような、あの感じ。もっと深い部分で感じる、自分の肯定感というかね。

 

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安田
なるほど。僕は自分で自分を好きな度合いを上げていきたい人間なので、よくわかります。なんていうか、「俺もなかなかやるじゃないか」というような?
小阪
そうです、そうです。「よっしゃー」と拳を握り締めるような。
安田
でも、「ワクワク」を世の中に伝えるために会社を立ち上げちゃう人って、あんまりいないと思いますけどね。初めてですよ、そんな人。
小阪
それは、ごもっとも(笑)
安田
僕が社員からすすめられて最初に読んだのは、小阪さんが日本経済新聞社さんから出された「ビジネス脳を磨く」だったんですが、あれは非常に論理的というか、スマートに本質を付いた内容で。その一方、小阪さんから頂いた「天職の作法」や「冒険の作法」は、すごく毛色が違っていて。本当に同じ人が書いたのかと目を疑ったんですよ。あれって、意図的にそうされてるんですよね?
小阪
はい。伝え方を変えていますね。本ごとに、想定している読者がいますから。私の中では“言語モード”を変えるというか。この本の対象はこういう方たちなんだから、求められているような書き方で伝えていこうと。ただし、伝えたい内容は常に一つですけどね。
安田
そうですね、メッセージは常に一つというか。ブレないですよね。
小阪
僕が性格的に、付き合いが幅広いというか。中央官庁の有識者会議に入って意見交換をしているかと思えば、帰りに商工会で八百屋のおいちゃんや魚屋のおばちゃん達と酒を酌み交わし、翌日は学会に参加して…と。そういう生活になっていて、もう、わけがわからない(笑)でも、それが自分としても心地良いですし、もっと見聞を広めたいと思っているので。
安田
それは…私とは正反対のタイプですね(笑)基本的に、小阪さんが言っていることって、「唯一の答えなんてないですよ」「正解は繰り返されないですよ」ということじゃないですか。でも、それにも関わらず、答えをすぐ知りたがる人って、実際には多くないですか?
小阪
それは、ありますね。あー、でもここ最近、ようやくAmazonのレビューでも「小阪さんという人の本は、安直な答えが書いてないところがいいんだ」というような、大変ありがたいコメントを頂けるようになってきましたよ。
安田
それは素晴らしい。ビジネスに唯一の正解なんて無いのに、いかにも正解がありそうに書いた本が売れちゃったりするので。そこはいつも、罪作りだなって思っていて。
小阪
そういう側面は、どうしてもありますね。それでも徐々に、変わってきている気がしますけど。
安田
でも、僕が小阪さんと接していて感じるのは、すごく多彩な表現方法を小阪さんは持っていらっしゃるけれども、根っこは「学者」なのかなと。そう思うんですよ。

 

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小阪
あー…。
安田
探求者というか研究者…というか。商人魂を持ちつつも、アカデミックな領域の方ですよね。真面目に、かつ地道に人間の感情とか衝動とか、そういったものの仕組みを研究されている。
小阪
それ…すごく嬉しいですね。自分の中に研究者マインドがすごくあって、研究そのものが好き。だから、その意欲が尽きないんですよね。でも、そういう「研究者」という属性が私のキャラクターの重要な位置を占めていることって、最近になってようやく気が付いたんですよ。本格的に学術研究の世界に触れるようになって初めて自覚したんです。
安田
あ、そうなんですか。でも、小さい頃から兆候はあったんじゃないですか?
小阪
そうですね…。感性に関する興味・関心というのはもう、それこそ10代の頃から持っていましたから。そこだけは首尾一貫していたかな。
安田
10代から、ですか?ちなみに学校では何を勉強されてたんでしたっけ。
小阪
それが…「美学」っていうんですけど。
安田
えっ?美学なんていう学問があるんですか?
小阪
そうなんです。でも、これがね・・・卒業しても本当にツブしが効かない学問でして。
安田
そんな(笑)
小阪
英語で"Aesthetics"というんですが、本当は「美学」と訳すんじゃなくて、「感性学」と訳すのが正しいらしいですね。
安田
あ、そうなんですか。
小阪
同じ絵を見ても感動する人としない人がいる。単に音楽でも、クラシックのファンもいれば、永ちゃんのファンもいる。そういった細かい違いが、なぜ起きるんだろう?って。ずっと疑問でしてね。
安田
へー。
小阪
あと、中学生の頃からお寺とか神社とかに入り浸っていたんですけど。なぜ、ただの庭なのに、心がふっと落ち着く庭と、そうでない庭があるんだ!?とか。もう気になって仕方がなかったです。

 

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安田
変な子供ですね(笑)
小阪
でしょう。でも、当時はそれを研究できる学問が何なのかわからなくて。というか、あまりなくて。今であれば、そういった人間の認知や意思決定のプロセスなどを科学的に研究するアプローチの一つは感性工学なんですが。当時はそういう学問が発達してなかったんですよね。
安田
じゃあ、美学って、どういうことをする学問だったんですか?
小阪
美学は、「美」という概念や、人間の認識に対して哲学的に切り込んでいくんです。「美の本質とはなんぞや?」という問いを突き詰めていく。でも、私は「美」という概念を哲学的に考察したかったわけじゃなくて、メカニズムを解明したかったんですよ。そこに何が起こっているのか知りたかったんです。
安田
科学的に解明したかったということですよね?
小阪
そうです。ただ、10代からのその首尾一貫した関心ごとは、今になってすごく研究に活きてきていますよ。感性工学とかコンピューターの発達によって、理系的に、工学や科学のアプローチで課題に迫れるようになってきていて。
安田
そういえば、海外の学会で論文も発表されていますよね?
小阪
はい。先日も、北米神経科学学会(Society for Neuroscience)という所で、発表させて頂きました。今も論文を書いてます。
安田
小さい頃からの興味が、今も仕事につながってるんですね。
  
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安田
これまでずっと、小阪さんが言われている現代社会の捉え方。あの、工業社会から情報社会、そして感性社会へという流れ。個人的にすごく納得できるんです。でも、一方で、じゃあ、なぜ感性社会に変化してきたのか、という原因がイマイチ明確にわからないんですよね。
小阪
感性社会への変化は、“消費”という観点から見たら、これは必然なんだと思います。工業社会の恩恵を受けて、同じものでもより安価で大量生産が可能になった。そのことで、それまで一部の人しか手に入れられなかったモノが手に入るようになったと。
安田
やっぱり、そこが大きいんでしょうね。戦後の高度成長期が、まさにそれで。
小阪
そうですね。だってね、小学生の頃、自動車が家に初めて来た日の感動は今でもはっきり覚えていて。それくらい自動車って、当時は高嶺の花だったんでしょうね。
安田
あ、確かに。僕も覚えてますよ。
小阪
ちなみに、小阪家の最初の車はマツダのファミリアでしたけどね。
安田
ほー、うちはスバルのレオーネでした
小阪
あれでしょ?シートのビニール、しばらく剥がさなかったでしょ?
安田
はい(笑)

 

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小阪
でも、その後、自動車は、それこそ学生でも持つようになって、さらには「自動車なんていらないんじゃないの」というような事も言われるようになって。あまりにも当たり前のものになっていったと。それって、ほんのここ数十年を見てみても、もの凄い変化ですよね。
安田
ということは、世の中にまだ車が行き渡ってなかったから「車=富の象徴」みたいになってたと。
小阪
そうそう。それが、私がよく論じる「消費感性」というものと連動していて。
安田
はい。
小阪
工業社会でモノやサービスがどんどん手に入るようになると、その消費体験を積み重ねますよね。例えばそれは、寿司屋さんに行くというのも同様で。昔だったら「今日は寿司屋だーーー!」というような高揚する感じがあったけれども。最近はね。
安田
「ちょっと寿司でも食いにいく?」みたいになってますしね。
小阪
でしょ?モノやサービスが大量に、かつ安価に手に入ることで消費体験を積み重ね、消費感性は高まっていく。じゃあ、そこまで行った時に次に何を消費するのか?そこに変化が生じてくると。それが、感性社会に突入していった要因の一つだと思いますね。
安田
だとすると、モノそのものの価値というか性能というか、そこに大きな差異がなくなってきて。例えばテレビがちょっと画質が良いとか機能が多いとか言っても・・・
小阪
もう驚かないですよね?
安田
そうですよね。まあ、白黒がカラーになる位のインパクトであれば、また別なんでしょうけど。
小阪
あれは確かにすごかったですね。
安田
ということは、そこまで革命的なことは、ここ最近は起こってないということですよね?
小阪
そうですね、なかなか難しいんじゃないかな。ちょうど先日、あるメーカーで便器の開発をしていた方のお話伺う機会があったんですけど。
安田
便器って、ウォシュレットですか?
小阪
そうそう。そういう類の開発の話。やっぱりあれは当時、ものすごく大きなイノベーションだったんですって。明らかに「欲しい」と感じられるものだったと。でも、初期のこの手の商品にはまだ、必要十分な機能が備わってなかったんですね。
安田
たしかに、最初はただ水がチューって出るだけでしたもんね。
小阪
でしょ?あと、なんというか、もっとよく命中するように改良するとか。
安田
命中(笑)

 

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小阪
まあ、それ以外にも乾燥とか脱臭とか、どんどん機能を付加していったと。それに応じてどんどん売上は上がって行ったし、それで良かったと。でも、ある所まで商品のレベルが到達すると・・・やることがなくなったんですって。
安田
なるほど。
小阪
ところが、それでもやらなきゃいけないから、どんどん機能を付加していきますよね。音楽が出せるとか、素敵な匂いが出せるとか。あとは・・・
安田
乾燥できるとか、温度が調節できるとか。
小阪
そうそう。そういう部分も含めて。でも、機能を増やしても、増やしても、思うように売上が上がらない時がやってくるんですって。やっぱり、あるレベルまで必要や欲求を満たしたら、別の局面がやってくるということなんでしょうね。
安田
いま、不景気だと言われてますよね。お金がないから、モノが買えないんだって、なぜか皆で信じていますけど、僕は「欲しいものがないから単純に買わないだけなんじゃないかな」って思うんですけどね。最近のマクドナルドの展開とか見ていても、そうじゃないですか。高いハンバーガーだったとしても、食べたければ皆、買ってますし。
小阪
まったく、その通り。同感ですね。
安田
だって、昔、給料との比較で見たときに今よりもずっと高額商品だったカラーテレビとか洗濯機とか、皆こぞって買ってましたもんね。
小阪
そう。おっしゃる通りだと思いますよ。で、これってすごく大事なことなんですけど、すごく気がついていないというか。
安田
本当に、誰も気がついてないんじゃないかってほどですよね。
小阪
で、これまた990円ジーンズとか出すと売れちゃったりするので。そうすると「ああ・・・やっぱりね。安いと売れるんだ」みたいになっちゃうじゃないですか。マスコミの論調もそんな感じですしね。
安田
でも、例えばユニクロの柳井さんからしたら、安いから売れてるわけじゃないって、わかってると思いますよ。安い衣料品なんて、溢れかえってるわけですから。もちろん、高いだけでも売れないでしょうけど。やっぱり安いだけじゃなくて、デザインも素材も機能もすごい考えているし、「欲しいな」「着てみたいな」ってお客さんが思うから、売れるんであって。
小阪
ユニクロは、独自の価値を創り出していますよね。安さだけじゃなくて、総合的に。「買いやすい価格」という項目も含めてバリューを提供している。だから伸びている。ただ、それだけの話だと思うんですよ。
安田
シンプルですよね。
小阪
それがリーマンショック以降、不景気だ不景気だって言うんで、じゃあデフレだ、価格戦略だって話になっていく。でも、そういった風潮が、根拠なく行き過ぎた先に見えてくる大きな問題は、必要とされる品質すら割り込んでしまうということですよね。価格で競合すべきではない企業まで無理に合わせようとすると、当然のことながら、価値は生み出せなくなって行きますから。
安田
逆に、高いというだけで売れていた時代って確かにありましたよね。フランクミューラーの時計とか、ステンレスなのに100万円以上するらしくて。でも、あれが20万円だったら、あんなに欲しがらないですよ。高いって知ってるから欲しいんだろうなと。
小阪
そうですね。
安田
高いだけでも、安いだけでも売れない。かといって、新しいものを生み出すのも簡単じゃない。ということは、やっぱり何か別の、新たな消費基準が生まれて来ているんだろうと思うんですよ。ここが小阪さんの本を読んでいて、すごく感じたことなんですけどね。
小阪
ありがとうございます。
安田
もう一つ、その、これも小阪さんが本に書いてらっしゃいましたけど。工業社会の後にやってきた情報社会では、情報があまりに多すぎて、いちいち比較して判断するのに、すごくエネルギーを要するようになってしまったと。
小阪
そう。それも、私がこの日本が「感性社会」と私が名付けた時代に突入した、大きな要因の一つだと思いますね。情報の流通量が莫大で、なおかつ変化速度が速い。最初は良くても、そのうち一般的な人間の情報処理量・速度の限界を越えてしまう。そうすると、多くの人は・・・

 

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安田
考えなくなりますよね。
小阪
うん。そう。考えなくなりますし、選ばなくなりますよね。逆にね。
安田
皮肉なもんですね…。
小阪
そう。これまでより、もっと一生懸命、情報を精査するかというと、たぶん、しない。
安田
ああいう、カカクコムとか価格比較サービスも確かに便利ですけど、差が20円とか30円とかなってくると、もう同じじゃないかと思いますしね。
小阪
たしかに(笑)例えば、うちのワクワク系マーケティング実践会の会員さんの中でも特に業績を伸ばされている経営者の方は、売り手側と買い手側との間に非常に、なんて言うのかな…深い共感とか信頼関係が出来ていて、そうなると、取引先を価格で比較する、とかそっちの方にはいかなくて。
安田
どうなっていくんですか?
小阪
むしろ「自分で選ぶより、あなたの言うように買いたい」みたいな?売り手側に主導権を取ってもらいたがる。それに乗りたいというか。比較の世界とは逆方向に関係性が発展するんですよ。
安田
なるほど。
小阪
まあ、一方でそういう消費というのは、深い共感と信頼関係に基づいて行われるので、裏切りは許されないわけですけどね。
安田
割烹料理屋で、おまかせで出てくるみたいなものですかね?
小阪
それに近いんじゃないかな。それなのに、裏で悪いことをやっていたりしたら・・・もうそれは絶対に許さないと。お客さんが一斉に来なくなっちゃいますから。そういう緊張感は、もちろんありますけどね。
  
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安田
しかし、こうやってお話していてつくづく思うんですが、消費っていうテーマは人間独自の行動で、奥が深いし、面白いですよね。
小阪
消費って、常に買う側に主導権がありますから、嫌だったら買わなきゃいいわけで。そういう意味では、時代の根っこの変化、先鋭的な時代の空気を最もわかりやすく、真っ先に投影するのが、消費行動なのかもしれませんね。
安田
そうですよね。それこそが、ビジネスの面白さでもあると思うんですよ。
小阪
そう。それこそ、ぐっときたから買う、みたいにね。でも、お客さんに「なんでぐっときたの?」と聞いてもわからない。それは、本人ですらきちんと論理的な説明が、できるわけではない。
安田
特に、女性のモノの買い方とか見てると面白いんですよ。なんか気持ち悪いキーホルダーとか持っている女性っていまして。「なんで、よりにもよってこんなモノを買うの?」って聞いても「だって、かわいいじゃないですか」って。
小阪
ははは(笑)言う言う。言いますよね。
安田
「どこがかわいいんじゃい、こんなもん!」って思うんですけど。でも、そのよくわからない「かわいい」という理由だけで、十分、買うに値する。お金を払う価値があるんだと。どんな素材で、何の役に立って、いくらなのか、とかそういうことじゃなくて。
小阪
そうそう。
安田
しかもですよ、他の人からしたら全くかわいくないものでも、本人がかわいいと思っていたらそれで良かったりするじゃないですか。

 

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小阪
はい。そうなんです。それ、まさに感性消費ですね。
安田
やっぱり。
小阪
日本人の「かわいい」っていう感性は世界的に見ても非常にユニークで、感性工学的なジャンルなんですよ。世界中で研究されていますしね。
安田
えっ?そうなんですか?
小阪
はい。「かわいい」は「Kawaii」っていう発音そのままで使われていますね。国際的な用語なんですよ。
安田
じゃあ、英語の「Pretty」とは意味が違うんですか?
小阪
そうなんですよ。ちなみに、「感性」も「Kansei」って呼ばれてるんですけどね。日本人の「かわいい」というのは、非常に独特な感性というか、独特な判断で。それは海外の研究者たちも、共通した認識を持っています。
安田
じゃあ、やっぱり女性の方が感性消費に長けているということなんでしょうか?
小阪
いやいや、そうとも限りません。男性の感性消費もすごいですよ。例えば…女性から見て意味不明なものが「メカ」とか「ロボ」ですよね。
安田
あー、はい、はい。そうか。
小阪
これは、やっぱり男性特有の消費感性ですよね。まあ、最近はプラモデル好きの女性とかも出てきていますけどね。
安田
女性の時計で、スケルトンとかあんまりないですしね。
小阪
でしょう?なんか、男性はこう…歯車が見えたりするとねー、ぐっときてしまうんですよね、意味もなく。
安田
きます、それは。きますよね(笑)
小阪
今回の新しい本、『「買いたい!」のスイッチを押す方法』にも書いていますけど、スターウォーズの主人公たちが使う…
安田
ライトセーバーですよね。
小阪
そうそう。それの精巧なレプリカがあるんですが。ルーカス・フィルム公認で全世界1,000本限定とか。もう最高にイケてるんですが、でもそれって、そこに価値を感じない人にとっては、ただの鉄の棒にしか見えないわけですよ。
安田
そうでしょうね(笑)
小阪
これが10万円するんですって説明すると、もう、驚くというか呆れてますしね。「これ、何に使うんですか?」って聞かれても「いや、何にも使いません、飾っておくだけ」って答えるだけで。

 

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安田
でも、ほら、造形が美しかったりするんじゃないですか?
小阪
それが…また、綺麗じゃないんですよね。特にあの、年取った方のオビワン=ケノービバージョンのレプリカなんて、エイジングしてあって凹んでるしね。
安田
ははははは(笑)
小阪
私自身もね、なぜこれが欲しいし、これが飾ってある自分の部屋を見て「よっしゃー」と思うのか、よく分からないんですよ。これなんて、感性消費のど真ん中ですから。
安田
なるほど。男性も女性も、感性消費してるんですね。小阪さんなんかは、幼少の頃からそういう消費感性を磨いてそうですよね。
小阪
ええ。バリバリにそうだと思いますよ。私、若い頃から買い物好きですから。今、こうして経営者の方と接していると、ご自身の買い物はあまりされない方もいらっしゃるんですけど、もったいないと思いますねー。
安田
そうですね、消費感性が磨かれないですもんね。
小阪
人が何かを欲しいと思う感性が、直感的にわからなくなっちゃいますよね。私、小さい頃から本当にわけのわからないものを沢山もっていましたよ。
安田
あ、私も持ってましたね、そういえば。
小阪
北野天満宮のガラクタ市に行って、意味不明なものを買ってきたりね(笑)あれも、独特なバリューですよね。
安田
人から見たら、ただのゴミですもんね。
小阪
本来、モノやサービスと対価っていうのは、その人の中で等価になれば良いのであって、絶対的な価格なんて幻想ですから。
安田
そうですよね。
小阪
でも、工業社会の時に、コストがこうで、マージンがこうだから売値はこうだとやってきた影響なんですかね。モノやサービスにはいわゆる“正価”というものが存在すると皆さん思い込んでますけど、"モノやサービス"の側じゃなくて、それを受け取る“人”の方に焦点をあてると、すごく変なことを言っているなとわかるわけです。
安田
僕も、つくづくそう思っています。
小阪
その人がどう感じるのか、という所にしか対価という概念は発生しないわけです。買う人の中で等価にならないと、絶対にお金は支払わない。ですから、その大原則を見失っている点も、現代における問題なのかもしれませんね。必要以上に高すぎたり、逆に安すぎたり。
安田
感性社会的に言うなら、僕、千円札よりも、五百円玉の方が好きですもん。なんとなく造形的に。
小阪
あー、これまで、そんな風に考えたことはなかったですね…。じゃあ交換してくれます?僕の五百円玉と安田さんの千円札。
安田
それは、ダメです(笑)

(次回、中編はお金の不思議と地方のぐっとくる会社について語り合います。お楽しみに!)

 


企画/取材 : 安田 佳生、森山 大朗
クリエイティブディレクション/デザイン/文 : 森山 大朗
写真 : 三浦 希衣子