ワクワク系マーケティング実践会を主催する小阪先生との対談もいよいよ終盤です。消費感性と行動との関係を科学的に研究するニューロサイエンス(神経経済学)の切り口から、感性の本質と日本という特殊な国の可能性が垣間見えてきます。機能ではない、感性価値が、なぜ重要なのか?いわゆる衰退産業と呼ばれるビジネスで、なぜ業績を伸ばせるのか?二人の経営者の、実体験を交えた対話をお楽しみ下さい。
- 安田
- 先程の、佐藤繊維さんの話とか聞くと、ますます実感するんですが。やっぱり日本って、感性社会の最先端なんじゃないかって。これちょっと、自惚れが過ぎますかね?
- 小阪
- いえいえ、仰る通り。感性の発達という意味で、日本は世界の最先端を行ってますよ。
- 安田
- やっぱり、そうですよね。しかも、相当先に行っちゃってるというか。
- 小阪
- 海外のクリエイティブ・クラスの方々の中でも、一流の人ほど、そのことに気がついているんじゃないかな。逆に、その事に一番気がついていないのが日本人だよねって、いつも言われるんですけどね。
- 安田
- それは、僕もそう思います。
- 小阪
- 日本の文化が、本来備え持っている創造性。すでに発揮しているクリエイティビティは、今も世界中を魅了してやみませんよ。例えば、日本のコミックとかもね、ああいうコマ割りって独特なんだそうで。

- 安田
- そうなんですか?全然知りませんでした。あれって、そんなに難しいものだったんですね。
- 小阪
- ある著名な漫画の研究者が教えてくれたんですが、海外の方は、描き方を教えてもなかなかあのように描けないんですって。
- 安田
- 私、アニメ大好きなんですけどね。留学していた時も、ガンダムとか観まくっていて。でも、当時の海外のアニメって、本当につまんなかったんすよ。
- 小阪
- それは…ね(笑)
- 安田
- つまらないっていうか、単純すぎるんですよ。でね、当時はアメリカ人に聞くと「アニメなんて、ガキが観るもんなんだ」って言われましたよ。あんなもん、大人が観るもんじゃないと。でも、それは違うだろうと。アメリカのアニメのレベルが低いからだろうって、ずっと思っていましたよ。
- 小阪
- だって、日本のアニメはね。
- 安田
- そう、日本のアニメは大人が観たって面白いじゃないですか。奥が深くて。
- 小阪
- 今では、世界中で評価されてますからね。ものによっては本当に、著名な文学作品と肩を並べるようにして評価されてますよ。
- 安田
- それに比べたら、ハリウッドとか、大雑把すぎるんすよ。
- 小阪
- 映画の関係者にお話を伺いますとね、近年、リメイクが多くなっているのは、今の消費感性に耐えうるものが創り出せないからってこともあるようですよ。ストーリーメイキングは、ノウハウがあるらしいんですけどね。
- 安田
- たしかに、飽きさせない工夫は得意そうですよね。
- 小阪
- でも、前提となるのはお話の筋書きではなくて、状況設定ですからね。今の、目の肥えた消費者の感性を驚かせるような、斬新な状況設定。そういう意味で言うと、『デスノート』の状況設定、あれはすごかったですよね。近年稀に見るすごさというか。
- 安田
- それ、すっごくわかります。
- 小阪
- もうね、ハリウッドの中だけでは、なかなかああいう斬新な状況設定が得られないんですって。そこだけは、一部の限られたクリエイターしか創れないらしくて。どれだけ起承転結を上手にやって、飽きさせないシナリオライティングをしたとしても、今までにない世界の設定ができなければ、面白いものが創れない。
- 安田
- カーチェイスしなくてもいいし、大爆発させなくてもいい。状況設定のポイントって、きっと、日常のちょっとしたことへの着眼点なんですよね。

- 小阪
- そう思います。消費感性が磨かれたことで判断が複雑になって、そういう細かい違いに気が付くようになってきたんですよ。そのことで社会全体が複雑系になって、感性社会に至ったわけです。そういった複雑な心の機微のようなものに耐えうるクリエイティビティを、日本は持っているんですよね。
- 安田
- それって、なぜなんでしょうね?
- 小阪
- 例えば、よく言われる説明としては、自然と対決するのではなく共生してきた地理的な豊かさとか。あるいは、八百万の神がいて、神という存在がすごく人間臭いものとして描かれるような、信仰的バックグラウンドですかね。
- 安田
- 多神教的な文化が関わっている…。
- 小阪
- そう。あと、デザイナーの原研哉さんが『Designing Design』という本で紹介している話が興味深かったですよ。日本地図を90度傾けて見てみると、パチンコの受け皿みたいになっててね。全ての文化がルツボとして集まる極東="FAR EAST"だと。ありとあらゆるものを全部取り込んで、新しいものを生み出してきた日本は、今こそ海外に向けてその感性を発信していかないといけないって。
- 安田
- 僕は、言葉とのつながりも深いと思ってるんですよ。日本語ってすごい複雑じゃないですか。ひらがな、カタカナ、漢字があって。尊敬語、謙譲語、丁寧語もある。男女でも違いますしね。
- 小阪
- タメ口とかもね。
- 安田
- そうそう。人は言葉で考えるので。言語が複雑だということが、日本人の感性が高まった理由の一つだと思うんですよね。歴史を振り返れば宗教だって、仏教、キリスト教ってどんどん受け入れてきていますし。クリスマスも正月もお祝いするっていう節操の無さが、逆に良かったのかなと。
- 小阪
- しかも、時代性に合ってますよね。そこまで複雑な状況を受け入れて、かつ独自のものを生み出してきたっていう背景を持っている国って珍しんでしょうから。
- 安田
- 僕、アメリカに留学していた時に感じたんですけどね。日本ではよく「場の空気を読めない奴はダメだ」みたいに言われるじゃないですか。でも、海外の人は「場の空気を読む」っていう感覚自体が、理解できないんじゃないかなって。
- 小阪
- あー、なるほど。
- 安田
- 彼らからしたら、超能力みたいなもんで。
- 小阪
- ははは(笑)
- 安田
- 「場の空気を読む」っていうのはつまり、言葉に出してないけど、相手の考えていることが読めるっていうことですから。なんでそんなことがわかるんだ!って不思議に思ってるんじゃないかな。
- 小阪
- ある意味、そういう領域なのかもしれないですよね。感性も磨かないと見えてこないことが沢山あって。磨くのを怠ると、退化しますからね。
- 安田
- やっぱり、そうなんですね。
- 小阪
- これは感性教育っていうジャンルの先生方にお聞きした話なんですが、絶対的に綺麗なものって存在しなくて、何かを綺麗だなって感じるには、そういう認識の元で見ておかないといけない。綺麗だってわかるようにならないんですって。言っている意味わかります?

- 安田
- ???
- 小阪
- 小学校3年生くらいの子供たちに、「夕焼けを見たことがありますか?」ってアンケートを取ったら約17%の子供たちは「見たことがない」って答えたそうなんです。でも、そんなのって、ありえないですよね?小学校3年生になるまで、夕焼けを一度も見たことがないなんて。
- 安田
- そうですよね。
- 小阪
- でね、それって「夕焼けをみたことがない」っていうことじゃなくて、「夕焼けを見て『ああ、綺麗だな』って感じたことがない」ということを意味しているんです。
- 安田
- えっ?…ああ、なるほど。
- 小阪
- 例えばお母さんが子供の手をひいて、「ほらほら、見てごらん、夕焼けだよ。綺麗だねー。」という体験をしないといけない。そうしないと、目の前に夕焼け自体は見えてるんだけど、「綺麗だな」という認識が育たないと。そうすると、印象的なものとして記憶に残らない。したがって、先程のような、ありえない回答結果につながってくるんですけどね。
- 安田
- 感性は育てないと、育たないっていうのはそういう意味なんですね。
- 小阪
- そう。今でも研究は進んでいるそうなんですけど、もっとわかりやすいのが、ススキ。あれって別段、綺麗な植物でもないじゃないですか。
- 安田
- たしかに。
- 小阪
- だから、「ほら、ススキだよ、綺麗だね」って言っても、子供は「これのどこが綺麗なの?」って思うんですって。でも、太陽に飾して振ってみると、キラキラするじゃないですか。そうすると「本当だねー」って実感する。
- 安田
- そういえば、アメリカ人ってね、川のせせらぎが単なる雑音にしか聞こえないんですって。
- 小阪
- えーっ!そうなんですか。
- 安田
- あと、エレベーターの中での振る舞い方が日本と異なっていて面白かったんですけど。あれは暗黙の了解?なのかな。日本人て、エレベーターで人と乗り合わせてドアが閉まると、基本的には同じ所を見て黙るじゃないですか。でも、アメリカはそのまま喋り続けるんですよ。見てる方向もバラバラ。

- 小阪
- ああ、確かに映画のシーンとか観ていても、そうですよね。
- 安田
- まさにあんな感じなんすよ。ただ、最近だと日本でも、同じように喋り続ける若者が出てきていて、ちょっと心配しているんですよね。
- 小阪
- なるほど。
- 安田
- まあ確かに、別に非難されるようなことはしてないんすよ。そんなに大声で話しているわけでもないし。でも、やっぱり「何でこいつらずっと喋り続けてるのかな」っていう違和感があるんすよ。だから、感性が高まっている外国人も出てきている一方で、逆に、良くも悪くも外国人化している日本人が出てきていているのではなかろうかと。小阪さんは、そういうことお感じになりませんか?
- 小阪
- 感じますね。ただ、正確に言うならば、日本人は感性そのものではなく、その素養があるということなんです。ワクワク系マーケティング実践会の会員さんを見ていても、消費を通じて感性教育を受けると、人間の感性が“発動”する様子というのがよくわかる。今回の『買いたい!のスイッチを押す方法。』にも書かせて頂いた、ある東北の呉服屋さんなんてまさにそう。ちなみに、創業6年目ですよ。老舗じゃないんです。
- 安田
- いまどき呉服屋さんで起業ってすごいですよね。めちゃくちゃ衰退産業じゃないですか。
- 小阪
- でも、ものすごい業績を伸ばしているんですよ。特に、若い女性のファンがどんどん増えているんですね。でも、若い子たちですから。そんなのお金持っているわけじゃない。でも、何らかのきっかけでそのお店に触れて、感性が高まっていくと、和の暮らしの面白さってものにどんどん気がついていくんですって。
- 安田
- なるほど、なるほど。
- 小阪
- 大変、興味深いです。やっぱり、日本人には脈々と受け継がれてきたものがあるんですかね。血がそうさせるんでしょうか。
- 安田
- DNAに刻まれているんですかね?
- 小阪
- わかっていることは、何らかのきっかけがあって感性が発動するということです。発動さえしてしまえば、感性が一気に呼び覚まされてくると思うんですけどね。でも、逆に言うと、きっかけを得なければ、いつまで経っても感性が高まっていかないということでもありますから。
- 安田
- じゃあ、感性は後天的に育っていくものなんですね。
- 小阪
- 脳科学の分野では昔から脈々とある「氏なのか、育ちなのか」っていう議論なんですけどね。DNAの研究者に多い立場からは「人間の感性は先天的に決まっている」、つまり氏が先だと言うんですけど、脳科学の研究者に近い立場からは「感性は後天的に育っていく」という認識ですしね。
- 安田
- それって、議論に決着はついたんですか?
- 小阪
- ほぼ決着ついてますね。あの、結局、どっちもだ。というのが結論なんですが(笑)

- 安田
- 決着ついたような、つかないような(笑)
- 小阪
- 仮に日本人として生まれたとしても、感性を磨く機会を得られなかったら、脳にそういう回路が作られない。そうすると結局、意識レベルで活用できるようにはならないわけです。仮に回路があったとしても、あまり使わない回路は脳が効率性を求めて溶かしてしまう。そうすると、細かな違いがわからない人間に育ってしまう。
- 安田
- いかんですねー、それは。違いがわからない人間って。
- 小阪
- でも、先程の呉服屋さんが言うには、若い人達であっても感性の教育が進んでいくと、そのうち細かな色の違い、素材の違い、作者の違いまでわかるようになってくる。それが高じていくと、作者が着物に込めた、情念のようなものまで感じ取るようになる。そういう子もいるらしくて。
- 安田
- それは!すごいですね。
- 小阪
- 京都であられ屋さんを営んでいる会員さんが、学校に出向いて授業をやってるんです。でも、最初はほら、添加物とかで、学生さんの味覚が偏ってますから。和三盆の繊細な甘みを活かした”おかき”とか、味がわからない。「味がしない」って最初は言われるんですって。でも、教えながら食べてもらって、その場で焼いて見せたりして、やっていくとやっぱり、1年くらいでわかるようになるんですって。
- 安田
- 希望がある話ですね、それ。
- 小阪
- こういうことって、すごく大事で。先程も言いましたが、これこそがビジネスに携わるもの、つまり商人に課せられた役割だと私は思うんです。と同時に、感性社会においては、自社の価値創造がマーケットで実現していくということですし。そして、おそらく自社の作り出した価値の違いがわかる消費者を育てるということは、すなわち、その対価は正当に頂けるということを意味しているわけですから。
- 安田
- そういう営みが、結局、長続きするビジネスにつながっていくということですよね。
- 小阪
- 感性工学には「感性品質」という言葉があるんです。通常の機能的なものとユーザビリティ(使いやすさ)など、定量化できる品質の、その先にある概念なんですが。
- 安田
- 感性品質…例えばどういうものを言うんですか?
- 小阪
- わかりやすい例だと、ハーレーダビッドソンの排気音ね。
- 安田
- ああ、なるほど。あの音がいいんすよね。
- 小阪
- 「ドッドッドッド」っていうあの排気音、バイクの鼓動ですよね。あれって、何も感じない人からしたら、ただの騒音ですけど(笑)でも、あれがなくなったらハーレーは、ハーレーではなくなってしまう。売れなくなってしまうって、ハーレージャパンの方々も仰ってました。
- 安田
- 私も小阪さんもビジネス書を書きますけど、感性を磨くにはビジネス書ばっかり読んでないで、小説を読んでみるとか、哲学書を紐解いてみるとか、ちゃんとした美味しいものを食べるとかしないといけないですよね。
- 小阪
- そうですよね。
- 安田
- 最近はもう行きませんけど、昔、社長同士の集まりとか行ってすごく嫌だったのが、効率でモノを考える人ばっかりで。高いワインを飲む理由は、美味しいからとかじゃなくて、単に高いからだったりして。欲しいものは外車と高級腕時計とデカイ家と別荘、みたいなね。なんか皆、同じパターンで。

- 小阪
- それは非常に重要で、単に値段が高い=一流ということじゃなくて。感性に響くビジネスをやっていくということは、磨きぬかれた感性によって生み出されたものを提供するということですからね。
- 安田
- あの、感性というのは、基本的に戻ることはないんでしょうか?
- 小阪
- そうですね。一度、消費体験を積んで、生物学的に書き替わった脳は、その回路を使わなくなって消去させない限り、そっくり元に戻ってしまうということはないはずなんです。発達していくんです。
- 安田
- そうなんですか。
- 小阪
- 先日、国内の大手化粧品メーカーさんにお招き頂いて、中国で講演させて頂いたんです。でも、ご依頼を頂いた当初、感性のマーケティングは明らかに消費成熟社会向けの考え方なので、中国にはまだ合わないかもしれないな?と思ったんですよ。
- 安田
- なんか、今の中国にはまだ響かない気がしますよね。
- 小阪
- そうそう、そう思うでしょ?私も当初はそうだったんですが、中国でも一部の消費が旺盛な地域、例えば上海とかだと、経営者の皆さんが悩んでいるレベルが、日本のそれと同じ水準なんです。商品を並べているだけでは買ってくれないとか、他社と差別化できないとか。
- 安田
- えーーーっ!!速いですね。
- 小阪
- そう、本当に発達が速い。おそらく、20年かけて日本が培ってきた消費感性と同じ量と密度をたったの数年で体験してきているということなんだと思いますよ。すごいスピードで。
- 安田
- 恐ろしい…。
- 小阪
- 逆に、中国でも内陸部で経営されている方は、売れる商品をいかに調達するか。きちんと確保するかということが最大の経営課題なわけです。仕入れれば基本的には売れるので。
- 安田
- じゃあ、中国の消費感性にも、地域格差が出てきているんですね。
- 小阪
- すごい格差ですよ。私は長年「感性は体験の"量"に比例して育つ」という考え方を提唱してきているんですが、今回の中国での講演で、より一層の確信を得ましたね。
- 安田
- 小阪さんのお話だと、世界中が後戻りすることなく、全体的にどんどん消費感性が上がっていくことになるわけですよね。それって…日本にとってはチャンスの時代というか。
- 小阪
- そう、ですから活躍の場はたくさんありますよ。日本人の美学と言いますか、豊かな感性に彩られたビジネスが、グローバルに華開く時代。21世紀ってそういう時代なんだと、つくづく思うんですよね。楽観的だと言われるかもしれないですけど。
- 安田
- あのー、全部じゃないですけど、特に地方の社歴の長い中小企業には美学がある会社が多いと思うんですよ。これまでずっと大事にしてきたものがあって、それがようやくこの時代で報われるのかなと。
- 小阪
- それ、私も感じますよ。
- 安田
- 世界中のお客さんから、まさにこれが欲しいんだと。それを待ってたんだと。求められている。なのに、当の本人がその魅力に気がついてなかったりして。
- 小阪
- 大変、もったいない話ですよね。気がついて頂きたいし、増えて欲しいですよね。
- 安田
- ぜひ、そういう会社が増えるように一緒にやっていきましょうよ。
- 小阪
- ぜひぜひ。ワイキューブさんが掲げている「ぐっとくる会社」というフレーズ、私、すごい大好きなんですけど。きっと、そういう会社って、感性に響く何かがあるから、ぐっとくるんだと思うんですよ。

- 安田
- 利益が出ていても、ぐっときませんからね。お客さんからしたら。
- 小阪
- こないですよね(笑)
- 安田
- その、何が“ぐっとくる”のか“ぐっとこない”のか、上手く言葉にできない所がもどかしいんですけどね。
- 小阪
- それは、そういうものなんですよ。なぜ、ぐっとくるの?って問われても、それは感性が言っているわけで。言葉にして説明するのは難しい。でも、何か“くる”ものが、確実にある。
- 安田
- そういうのって、お客さん自身、明確に答えられなかったりするんですよね。
- 小阪
- 最近、大学の講義の最後に必ず学生に伝えているのが、経営に必要な大きな要素は美学だということなんです。そして、その美学を提唱するだけでなく、体現していることだと。そういう経営を貫いていると、お客さんはもちろん、働いている人の感性にも、パートナー会社さんの感性にも響く、”何か”ができてくる。そのことでより一層、経営が上手に回っていくんですよと。
- 安田
- そう考えると感性社会というのは、情報社会というより、資本主義社会に代わるものとしてその姿を現してきているのかもしれないですね。誰も逃れられない、もっと大きな社会の変化というか。
- 小阪
- すごくスケールの大きい変化が既に始まっています。感性社会に適応したビジネススタイルに変わっていくと、働いている人たちだって変わるんですよ。
- 安田
- どんな風に、変わっていかれますか?
- 小阪
- うちの会員さんに、長野の新聞販売店さんがいるんですが。この時代ですから。社長さん曰く、新聞販売で働いている人たちのモチベーションって、往々にして低いんですって。離職率も高いし、他で働く所がないから新聞配達している、なんていう事業所も多いらしくて。なんだけども、そこの社員さんは非常に自己肯定感が高いし、新聞配達に携わっているということに、それこそ誇りを持っているんですよ。
- 安田
- なるほど。
- 小阪
- そういう風に、変わっていくんです。会社の中から。それだけじゃなくて、お客さんとの関係も、単なる売り買いの関係に留まらず、お互いを慮るような、非常に良いものに変わっていくんですよね。その会社さんなんて、今ではお客さんのことすごい大好きなんですよ。「うちのお客さんは、本当にいい人ばっかりで」が口癖になってて。
- 安田
- あ、それはわかります。うちの社員も、お客さんのこと大好きですもん。お客さんからも好かれてますしね。
- 小阪
- そうなんですよ。でも、実際には、世の中そんなにいい人ばかりなわけがないじゃないですか。ありえないですよね。
- 安田
- 冷静に考えると、そうですよね(笑)
- 小阪
- でも、それって、こういうことなんですよ。感性社会に適応した会社や社員さんに触れたことで、徐々にお客さんも変わっていきますから。その相互作用によって、お客さんの中にある、本来持っている“いい人”が発動してしまうというか。実際に見ていると、そういう気がしてならないんです。

- 安田
- 私も、そう思いますよ。
- 小阪
- その新聞社さん、人材採用の面でも面白くて。先日、ふらっと四大卒の女性が新卒で応募してきたんですって。もちろん実家は長野にあるんですが。帰郷するたびにそこの新聞販売店のニューズレターとか読んでいて、感化されたらしくて。
- 安田
- 新卒採用にも成功したってことですか!ちなみに、何が理由で応募してきたんですか?
- 小阪
- 「この会社なら、自分という人間が活きると思って」って言っていたそうですよ。
- 安田
- 心の対価っていうことでしょうか。
- 小阪
- 彼らを見ていると、これからどういう企業社会になっていくかイメージできるし、現実的な手応えを得ていますよ。
- 安田
- そういう会社を、もっと増やしていきたいですね。今日は長い時間、ありがとうございました。
- 小阪
- こちらこそ!ありがとうございました。
企画/取材 : 安田 佳生、森山 大朗
クリエイティブディレクション/デザイン/文 : 森山 大朗
写真 : 三浦 希衣子

小阪 裕司 (こさか ゆうじ)
オラクルひと・しくみ研究所 代表
日本感性工学会 理事
静岡大学大学院 客員教授
中部大学大学院 客員教授
山口大学人文学部卒業。(美学専攻)
作家、コラムニスト、講演・セミナー講師、企業サポートの会主催、
行政とのジョイントプログラム、学術研究などの活動を通じて、
これからのビジネススタイルとその具体的実践法を語り続ける。
人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を
研究・開発し、2000年からその実践企業の会
「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。
現在全都道府県から約1500社の企業が参加している。
「日経MJ」での250回を超える連載コラムが人気を博す他、
著書は最新刊『「買いたい」のスイッチを押す方法
- 消費者の心と行動を読み解く - 』(角川書店)はじめ、文庫化含み計23冊。
詳細は、http://www.kosakayuji.com




